2016.07
うたらばvol.16【風】 30首
(写真作品)

卓上の『カラマーゾフの兄弟』を試し読みして去ってゆく風(木下龍也)

ビル風にあおられながら立っていてここで生きてくしかない僕だ(貝澤駿一)

風化する記憶はすでに砂に帰す砂丘をのぼりゆく私たち(ニキタ・フユ)

乗ることもないまま滅びてしまいそう風雨に晒されているブランコ(七波)

風立ちぬ屋上にきみは両の手を大きくひろげて夏を待ちをり(太田宣子)

燃えるごとく髪をなびかせ君は行けプラットホームを駆け抜ける風(千束)

さようならもひとつの風であることを知りつつぼくが散らした花よ(琴平葉一)

風物詩みたいな君のギンガムの裾ひらひらと夏をまきこむ(高松紗都子)

ダクトから噴き出す風の臭いする体になって出るラーメン屋(飯田和馬)

風と似た速度で歩くそれでこのひとりぐあいが紛れるのなら(関根裕治)


(佳作集作品)

好きな方角を向かせてもらえずに転職を考える鶏(宇野なずき)

猫舌のわたしのために地球一やさしい風を生み出すあなた(羽島かよ子)

庭先で見上げる雲のスピードが速くて現実逃避ができない(麻数)

現実を見据えなさいと担任は穏やかに言う風のない午後(香村かな)

風の音のような響きの名をつける秋という字を音読みにして(風花 雫)

ふうせんに一生懸命ふき込めどふき込むほどにふくれる子の頬(でん)

海底にゆらりと咲いて風を待つ海藻ほどの自由が欲しい(まとか珈琲)

別れくる道たいらかに踏みしめてつまずくこともない南風(高松紗都子)

コップにもちひさき水平線のあり風信子の根の白く広がる(太田宣子)

進路希望用紙に風と一筆で書いたあなたが帰ってこない(朝倉洋一)

自転車で風になれるか試しても誰にも叱られぬ一本道(麻倉ゆえ)

校長が卒業式で打ち明ける初めて風を盗んだ話(きつね)

あかねさすお子様ランチの日の丸に風を教えつ持ち帰る子ら(西村曜)

広島風お好み焼き対関西風お好み焼きを観るモダン焼き(篠原謙斗)

千の風になってスカートめくったりしていますんで泣かないでください(尼崎武)

「我々は宇宙人だ」と言ったのに首を左右に振る扇風機(西淳子)

もうずっと吊られたままの風鈴が春一番をお知らせします(有村桔梗)

肩ロース・卵・しらたき特売で犬とふたりで食うすきやき風(伝田ちひろ)

玄関の扉をひらけば吹いてくる風のことです春というのは(千原こはぎ)

割れるより飛べなくなった瞬間が1番切ない朱い風船(藤村佳奈子)

 *

暴風雨警報を喜びとして朝の窓辺に張りつく子供(田中ましろ)