2016.03
うたらばvol.15【ドア】 30首
(写真作品)

ささめゆきあなたが冬を曳くときにふれるつめたいドアノブがある(高松紗都子)

冷蔵庫の扉をドアと呼ぶひとよエビを取るときそこは海かい(ゆら)

控えめにドアがコトリと音を立てわたしはきれいな寝顔をつくる(菊池優花)

手で閉める電車のドアがあることを君に教えるための里帰り(七波)

蹴破るしかないドアなんて開けるべきではないのだし次行きましょう(とき)

厳寒のホテルのドアに揺れているDon't disturb until spring.(春まで起こさないでください)(西村曜)

年ごろの少女と同じ感性でドアのむこうを夢みる白猫 (やまだわるいこ)

くちびるはとびらと思う冬の日に念入りに塗るリップクリーム(有村桔梗)

白鯨の眠る海には行けるねとふたりひらいている課題図書(琴平葉一)

似たやうなドアが並んでゐる春をきみは制服なんかで選ぶ(太田宣子)


(佳作集作品)

遠いドア 遠い銃声 きみの瞳の向こうに海が透けて見えるよ(飯田彩乃)

ドアのない家が描かれたBの絵を選んだ人は僕を好きです(宇野なずき)

よろこびもかなしみもみな受けいれる花屋のドアはいつも開いてる(羽島かよ子)

母という仕事のひとつ開け放てトイレも風呂も服も両手も(ちょこま)

限界の向こう側へといくのにも最近じゃ自動ドアみたいよね(ひの夕雅)

ちょうつがい軋ませドアは冬空を飛ぶ蝶としてわたしを拒む(やじこ)

回したらノブだけ取れて開かない扉のような遠い思い出(ユキノ進)

ずっと慣れなかった丸いドアノブがやさしいような寒い日の朝(稲垣三鷹)

ショッピングモールのドアはいつだって押さえてくれる人を欲しがる(榎本圭子)

右のドアミラー覗けば追い越しの車線を加速してくる〆切(関根裕治)

ドアを開け夜の路上のざわめきと風の匂いを連れ帰るひと(吉川みほ)

リアウインドウ染めて広がる青空をピアノの蓋のようにひらいた(高松紗都子)

透明なガラスに自動と書いておけ しばらく奴を足止めできる(春数)

存在をときどき確かめたくなって深夜ひとりで立つ自動ドア(千原こはぎ)

習慣で愛していたい人といて朝と夜とにひらかれるドア(辻聡之)

さっきまであなたが笑っていた部屋のしんしんとドアノブの冷えゆく(嶋田さくらこ)

S.W.A.T.がドアを粉砕した部屋のとなりのひとが逃げてゆきます(猫丸頬子)

大切な暮らしもひともありました選ばなかったドアの向こうに(麦野結香)

ふすま開け布団を用意してくれる祖母の背中の優しい歪み(麻倉ゆえ)

部屋を出るあなたとすれちがう雪は僕に似ていて弱気だったよ(木下龍也)

 *

ノブを掴むような握手でこんにちは開けば君のなかにある空(田中ましろ)