2014.01
うたらばvol.09【水】 30首
(写真作品)

うつくしいひと枯れるまで海を生みわたしのなかへ早くおかえり(水川史生)

激しくて見とれるほどのクロールがプールサイドに散らす夕焼け(麻倉ゆえ)

あたらしい水に金魚を放つまで一緒に息を止めるいもうと(苗くろ)

逢うときは秘密にしてる冠水をくりかえしてる街があること(琴平葉一)

水回りにておしまいの家事でした今日からひとりの四月はつよい(藤本玲未)

水掻きは無くしたけれど泳げるし翼が無くても飛べる気がする(とき)

水晶ものぞきこまずに告げられる淋しい魚を飼ってますねと(山田水玉)

もうじきに雪にもふられてファミレスの冷えた水には悪意の匂い(ニキタ・フユ)

君の名を呼ぶことのない唇を静かに汚している酸性雨(鈴木晴香)

水たちの使命は浄化 どのような表情であれふるまいであれ(木下龍也)


(佳作集作品)

ああ君は怒っているね火ではなく炭酸水のような怒りだ(牛隆佑)

溜息を押し付けあってするキスもエビアンの蓋みたいな色だ(こゆり)

瓜を切るそれまでそっと大切に保たれていた水が溢れる(相田 美奈子)

液体になれば私を必要としてくれますか その喉仏(佐倉まり子)

君は水 俺の体のすみずみをめぐってやがて外に出ていく(篠原謙斗)

夕さりのひかりを統べる王水よなきがらはみな海へと還る(琴平葉一)

真夜中に薬を飲んだいつまでも開けっ放しの蛇口が嗤う(キョースケ)

さざなみだ、さざなみだって言い張って君は小さく肩ふるわせる(西村湯呑)

嚥下したつめたい水の存在感その鋭利さに救われている(六条くるる)

バケツにはいくらかの水やり終えた花火が入りろうそくを消す(閏曜日)

水鳥の喉を通ってゆく道の先に静かな放尿があり(藤本玲未)

涙の日知ってるようにひょいと来て慰めるならもう行かないで(ちぃ)

電源をぱつりと落とす耳元で夜の水位が上がり始める(円)

草冠、木偏のもとに落とされた種子やわらかく水を吸いこむ(高松紗都子)

飛び込めばわたしの形で包まれて 何も知らない水の優しさ(小山田吹雪)

ゆるすよりなじってくれよ ブランコは雪にしずかにしめりを帯びる(虫武一俊)

吸い飲みを鞄に入れてドア閉めるもう来はしない父の病室(住友秀夫)

旧姓で呼ばれたくなる 晩秋の体は水を弾かなくなる(倉野いち)

水しぶきあげて進んでいくものはたいていおれより強いのだろう(瀧音幸司)

オランダの秋の運河をゆく水のひかりのようにあなたは歩く(ユキノ進)

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重力に逆らうように壜のなか空へと向かう気泡のつよさ(田中ましろ)