2013.08
うたらばvol.08【田舎】 30首
(写真作品)

昆虫も家も夕日も運命もここではなにもかもが大きい(牛隆佑)

残された人になるんだ 東京へ「帰る」とみんな笑う1月(都季)

秘境駅ばかりつらなる沿線を時間は間延びしてゆくみたい(想子)

ふるさとに待つひとあればただながいただただながい家出のさなか(琴平葉一)

トラクターの速度で進む一日がいまのんびりと暮れゆくところ(山本左足)

四月でも普通に雪の降る町でもうしわけないが来てくれますか(瀧音幸司)

東京は東京のごく一部です 川のほとりをさまよいながら(実山咲千花)

ばあちゃんがじいちゃんを呼ぶ かろうじて空だとわかるあお指しながら(白亜)

ふるさとにしかない果実 甘いだけただそれだけのその凄まじさ(山田水玉)

東京はいいところねと繰り返す祖母がわたしを駅まで送る(飯田彩乃)


(佳作集作品)

余所者のふりをしながらいつまでも運賃表を眺めていたい(木下龍也)

鮎釣りのひとにまぎれて笹舟をこっそり流す初夏の水ぎわ(九魚こはる)

担ぎ手のいない神輿は飾られてあなたもここに帰ってこない(嶋田さくらこ)

曾祖父はおそらく母の名を呼んだ農薬散布する手を止めて(氷吹けい)

スイッチが乗換駅にあるらしく在来線で訛りが戻る(麦野結香)

葬式で囲む笑顔の寿司のなか祖母の目やにを確かめていた(山猫)

もう帰らなくてもいいと言われてる 母が送ってきたさくらんぼ(天鈿女聖)

「誰が好き?」イニシャルトークしてみたいうちのクラスの六割吉田(苗くろ)

東京で田舎に向けた僕の眼と三年前の僕の眼が合う(鼠と象)

避けようのない恋だった二つだけ並ぶ机に降りそそぐ春(星乃咲月)

隠れ場所ひとつもないからこの空のこの星ぜんぶが僕をみている(糸海ユキ)

信号のない町だから立ち止まるきっかけをまだ掴めずにいる(空木アヅ)

「帰ってきても良いのよ」なんて母さんは薬缶のまんま麦茶を冷やす(龍翔)

どの夏も見送るだけで田舎とはぼくからきみをさらうひととき(辻 聡之)

妹はわたしのいない部屋に住みベッドの下を掃除している(飯田彩乃)

残高で君を心配する母の背中を撮ってメールしておく(ろくもじ)

同中の奴らにAEONで会わぬため憧れている東京暮らし(小山田吹雪)

この町は君の言葉を話す人ばかりで狂い始める時計(鈴木晴香)

役場前中学校前バス停に固有名詞の要らぬふるさと(住友秀夫)

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石段の苔踏みしめて思いだす すべてと呼べる人のいたこと(田中ましろ)